フィーリング

小学二年生になる甥っ子が、俺に全然なついてこない。子供も子供なりにフィーリングの合わない相手がいるだろうと思うので、俺にとっては、なつくか、なつかないかなんて別にどうでもいいのだけど、義妹にとっては気に病むことのひとつのようだ。

 

「二人のことを探偵ナイトスクープに依頼しようかと思っている。」

 

先日、いきなり義妹にそう切り出されてギョッとした。探偵ナイトスクープは、毎週録画予約して見るほど俺の好きな番組なのだが、自分が番組の標的となるのは絶対に嫌だ。例え、その依頼内容が、長年俺に想いを寄せてくれている異性からの愛の告白だったとしても嫌だ。俺は、皆が思っているよりもシャイで内気で人見知りで自意識過剰なのだ。何が何でも勘弁してもらいたいので、甥っ子と俺の二人の距離は意外と縮まってきているのだよというエピソードを教えて、義妹を安心させてあげた。

 

それは夏休みに、うちの家族とのキャンプに、甥っ子を連れて行ったときのことなのだけど、途中立ち寄った温泉で、風呂上がりに待ち合わせるための和室で俺が寝転んでいると、一人ひょこひょこと甥っ子がやってきてこう言ったのだ。

 

「ねぇねぇターちゃん。アイス買ってよぅ。」

 

いつもなら、俺への警戒心を解こうとしない甥っ子が、目をキラキラさせながらこう言ってきたのだ。平静を装いながら、俺は心の中で泣いた。はっきり言って、俺はとても嬉しかったのだ。

 

「え?そんなん言えるんや?」

 

思わず俺は呟いていた。俺に近づいてきたのが、アイス目的でもいい。子供ってやつは、そうやってぐいぐい無遠慮に膝に乗ってくる感じを出してくれたほうが、絡みやすいのだから……そうだ。いっそ思い切って、俺の膝に乗ってくるがいい。俺は甥っ子に、ニッコリと微笑み返しながらこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう六時過ぎとるからな。晩御飯食べられへんようになるから、こんな時間にアイスなんか食べたらアカン。」

 

 

 

 

ふと視線を感じて、隣りのテーブルを見ると、幼い子供ら二人にアイスクリームを食べさせている家族が座っていた。この距離だと、間違いなく俺の声は丸聞こえだっただろう。夫婦は、気まずそうにこちらをチラチラ見ながら、子供らにアイスを早く食べてしまうように促したが、まだ幼い子供らは口の周りにバニラアイスをまとわりつかせたままで、自分たちの今置かれている状況がピンときていないようだった。溶け始めたアイスが指を伝ってテーブルの上にひとしずく落ちる。

 

 

 

 

 

気が付くと、俺への興味を急速に失ってしまった甥っ子は、どこかへひょこひょこと歩いていってしまっていた。今回、甥っ子と俺との、二人の間の距離を縮めることは、残念ながら叶わなかったのだがとにかく、探偵ナイトスクープへ依頼することだけは、勘弁してもらいたいものである。

 

 

 

 

 

 

 

おわり