敗北

色々と思うところがあって、今年の夏にスナック菓子を食べるのを一切やめた。単に食べすぎだったことに気づいただけなのだが、あんなに高カロリーで何が入っているのかよくわからないスナック菓子を毎日毎日食べ続けて体に良いはずがない。

 

お気に入りは、キャベツ太郎、カラムーチョ、スッパムーチョ、横綱あられ、えび満月、柿の種、パクチーチップス、おにぎりせんべい、ぼんちあげ、うまい棒じゃがりこ………などなど、あれだけ好きで、毎日食べていたというのに、最近の俺はまったくスナック菓子に興味を持たなくなってしまっていた。目の前で子供たちがスナック菓子を食べていても、もはや手が出ることはなく……旨そうにスナック菓子を食べる大人を見ると、嫌悪感すら感じている俺がいた。

 

いやいや、大人になってまで、そんなん嬉しそうに食べるなんてアホやん?と、(かつての自分のことを棚に上げて)心の中で思っていた。そう俺には自信があった。今後俺は、二度とスナック菓子を口にすることはないだろう。

 

 

 

しかし、思わぬところに落とし穴は空いていた。まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。俺を貶めたそいつの名はポンスケ。
カリっと香ばしい甘辛醤油の海苔味のやつだ。あられやおせんべいでお馴染みの、ぼんち株式会社の密かな人気商品のひとつで、小分け袋に入っているため外出時のおやつにもぴったりで、あまからのタレと、あおさがマッチしたひとくちサイズのスナック菓子なのだ。
 
ちなみに、かつてスナック菓子が大好きだったころの俺は、ポンスケにはほとんど興味がなかった。だから、油断してしまったのだろうか……出会いはあまりに突然だった。昨夜、ビールを飲みながらカツオのタタキを食べていたら、思いのほかタタキの量が多かったため、ビールの次に缶チューハイに手を出していた俺は、今度はチューハイを持て余してしまっていた。皿からはタタキもなくなってしまい、さて残りのチューハイをどうしたものかと考えていたところ、妻が友人からもらってきたという菓子が入った紙袋を俺の前に持ってきたのだ。クッキーや煎餅、瀬戸内レモン風味のツマミに紛れて出てきたポンスケはあまりにキュートだった。
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気づいたら俺は、ポンスケを開け、無我夢中で頬張っていた。
 
酔ってたから……なんて、ありきたりの言い訳をするつもりはない。かといって敗北したわけではない。これは新たな出会いなのだ。
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ポンスケ鬼旨いなちくしょう。
 

投げキッス

バスの中にいる美女から投げキッスを送られた俺は、夢中になって投げキッスを返していた。

 

美女からの思わぬ投げキッスに舞い上がった俺は、気が付くとしばらくバスを追いかけながら三回、四回と両手を広げて投げキッスを返していた。走り去るバスが、坂道を下って行くのをツツジの植え込み越しに見送りながら、俺の脇からヘソにかけて冷や汗が流れ落ちた。


「みんな、めっちゃこっち見てたやん。」


それは今年の6月に、淡路島へ合気道の合宿に行ったときの出来事だ。稽古後に、近くの温泉に入りに行くのが毎年恒例となっていて、最終日はそこで解散となる。自分の車で淡路島まで行っていた俺は、バスで帰るほとんどの参加者を温泉の前で見送る形になった。

 

合宿は、二日間に渡りタイトな時間割りでハードに行われる。体力に自信がない俺でもなんとか二日間を乗り切ることができたという充実感に満たされながら、バスの中から手を振ってくれる皆に手を振り返していた。そのほとんどが年に一度か二度としか会うことのない人たちだ。それぞれが抱いているに違いないそれぞれの充実感に満たされたとてもいい顔をしている。

 

その中に、ふと見慣れた顔が目に入った。同門のTさんだ。Tさんは、遠方に住んでいるのだが、遠路遥々今回の合宿に参加していた。今、流行りの言葉でいうと、まさに「美魔女」と呼ぶのにふさわしい容姿の持ち主で、キラキラした目を輝かせながら俺に向かって投げキッスを送ってきてくれたのだ。隣りに座っている人にバレないようにだろう、その小柄な体をシートと窓の隙間に潜り込ませ、唇の前で小さく指でポッと花咲かせるようして投げられたかわいいキッスに俺の胸はキュンと高鳴った。


そこで俺は、Tさんに向かって夢中で投げキッスを返したわけなのであるが、他の窓からもまた奥側の席からも立ち上がってこちらへ手を振るたくさんの人々がいたわけであり、つまりそれはバスの中にいる人たちにとってみたら、とんでもないことを俺はやらかしてしまったわけである。「キモっ。」ってなった人もいれば、「は?殺すぞ。」と思った人もいるはずだ。40半ばのおっさんから容赦ない投げキッスを送られた若い女性たちの気持ちを想像するだけで、いまだに俺は悶絶してしまいそうになる。

 

そして、よくよく考えてみたら、あの時のTさんの目の奥には、いたずらっ子のような光が宿っていたとしか思えないのである。

 

 

 

 

こないだ、久しぶりにTさんに会ったので確認してみたら、「んふふふふ。ほんとバカねぇ。」と、いたずらっ子そのものの目で笑っていた。

 

 

 

 

 

ま、惑わされた。見た目だけでなく、Tさんはまさに美魔女だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

赤っ恥は掻いたが、あの時の胸のトキメキはいつまでも忘れない。そして、あの日から俺はずっと探してる。本物の投げキッスを………ふっ。

 

 

 

 

 

それでは聴いていただきましょう。エンディングを飾ってくれるのはTHE DOORSで、曲は「ハートに火をつけて」です。どうぞ。

部屋と耳栓と私

神鍋高原へ合気道の合宿へ行ってきた。俺は大きなイビキをかくため、同じ部屋の先輩方に迷惑をかけてはならないと思い、配るための耳栓を用意していたのだけど、不覚にも(まったくもって不覚にも)たいそう酔っ払って、誰よりも先に部屋に帰り寝てしまったのだ。しかし夜中に目が覚め、ハッとすると同時に安堵感が胸をなでおろしたのである。

 


部屋中に響き渡る様々な音域のイビキのうねり……同部屋の方々は、どうやら合気道だけではなくイビキにおいても先輩だったようだ。嬉しいっていうか、まぁなかなかうるさくて全然眠れなくなった俺は、持ってきた耳栓をソッと開封したのであった。

 

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フィーリング

小学二年生になる甥っ子が、俺に全然なついてこない。子供も子供なりにフィーリングの合わない相手がいるだろうと思うので、俺にとっては、なつくか、なつかないかなんて別にどうでもいいのだけど、義妹にとっては気に病むことのひとつのようだ。

 

「二人のことを探偵ナイトスクープに依頼しようかと思っている。」

 

先日、いきなり義妹にそう切り出されてギョッとした。探偵ナイトスクープは、毎週録画予約して見るほど俺の好きな番組なのだが、自分が番組の標的となるのは絶対に嫌だ。例え、その依頼内容が、長年俺に想いを寄せてくれている異性からの愛の告白だったとしても嫌だ。俺は、皆が思っているよりもシャイで内気で人見知りで自意識過剰なのだ。何が何でも勘弁してもらいたいので、甥っ子と俺の二人の距離は意外と縮まってきているのだよというエピソードを教えて、義妹を安心させてあげた。

 

それは夏休みに、うちの家族とのキャンプに、甥っ子を連れて行ったときのことなのだけど、途中立ち寄った温泉で、風呂上がりに待ち合わせるための和室で俺が寝転んでいると、一人ひょこひょこと甥っ子がやってきてこう言ったのだ。

 

「ねぇねぇターちゃん。アイス買ってよぅ。」

 

いつもなら、俺への警戒心を解こうとしない甥っ子が、目をキラキラさせながらこう言ってきたのだ。平静を装いながら、俺は心の中で泣いた。はっきり言って、俺はとても嬉しかったのだ。

 

「え?そんなん言えるんや?」

 

思わず俺は呟いていた。俺に近づいてきたのが、アイス目的でもいい。子供ってやつは、そうやってぐいぐい無遠慮に膝に乗ってくる感じを出してくれたほうが、絡みやすいのだから……そうだ。いっそ思い切って、俺の膝に乗ってくるがいい。俺は甥っ子に、ニッコリと微笑み返しながらこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう六時過ぎとるからな。晩御飯食べられへんようになるから、こんな時間にアイスなんか食べたらアカン。」

 

 

 

 

ふと視線を感じて、隣りのテーブルを見ると、幼い子供ら二人にアイスクリームを食べさせている家族が座っていた。この距離だと、間違いなく俺の声は丸聞こえだっただろう。夫婦は、気まずそうにこちらをチラチラ見ながら、子供らにアイスを早く食べてしまうように促したが、まだ幼い子供らは口の周りにバニラアイスをまとわりつかせたままで、自分たちの今置かれている状況がピンときていないようだった。溶け始めたアイスが指を伝ってテーブルの上にひとしずく落ちる。

 

 

 

 

 

気が付くと、俺への興味を急速に失ってしまった甥っ子は、どこかへひょこひょこと歩いていってしまっていた。今回、甥っ子と俺との、二人の間の距離を縮めることは、残念ながら叶わなかったのだがとにかく、探偵ナイトスクープへ依頼することだけは、勘弁してもらいたいものである。

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

長い話

この頃すっかり、ご無沙汰ぶりになってしまっていた方に、ご無沙汰ぶりになってしまっていた理由である首の負傷について話した後に、側にいた次男から「お父さん、話長かったで。」と言われた。

 


俺は、話の長いおっさんにだけはなりたくないと思って、今日まで生きてきたというのに、よりによって俺自身が話の長いおっさんになってしまっていて、しかもそれをうちの家族の中で一番常識的と言われている次男からやんわり指摘されるという大失態を今日犯してしまった。確かに今、脳内リプレイしてみたら俺の話は長かったかもしれない。

 


思わぬことを言われた俺は、20代のフリーターをしていた頃、友達の家へ行ったら、「この世で最高の雑炊を食わしたるわ!」と言われて、俺が参加してない昨夜行われたらしい宴の残り汁で雑炊を作られ、キラキラした目で皿に盛られた時くらいゾッとした。

 


しかし、例えばヒーロー戦隊は、最初から変身して登場した時は必ず負けるけど、時間をかけてキメキメの変身ポーズで出てきた時には必ず勝つというジンクスもあるわけだし、そもそも話が長いかどうかは相手の主観で決まることであって、決して会話に参加していない奴からとやかく言われる筋合いはないと思うのだ。しかも次男には、「従兄弟が遊びに来ているから、早く家に帰りたい。」という、どんな話であっても長く感じる理由もあったわけだから、決して俺だけが悪いわけではない。会話はキャッチボールであり、雑炊には決して知らん奴の唾液を感じたくないのであり、ヒーロー戦隊といえば俺が小学校5年生の時に、仲良し3人組で結成されたオズマーズが最強なのである。

 


……え?ひょっとして俺の話、長い?

ナイトプール

今、ナイトプールとやらに、開放感を求めた女性たちが続々と集まってきているらしい。

 

どうやったら行くことができるのか、調べてみようと思っている。

 

何か分かったら報告する。

 

 

以上

目覚まし時計

いつも目覚まし時計が鳴っても、一旦止めてから、学校へ行く寸前まで寝てる長男が、珍しく早い時間帯に起きてきた。しばらくすると、起こす者のいない寝室から目覚まし時計の鳴る音がしてくる。どうやら止めるのを忘れていたようだ。

 


面倒臭そうに目覚まし時計を止めに行った長男が、まったく帰ってこないので、寝室を覗いてみると……スヤスヤと寝息をたてながら眠っているではないか。

 

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おいおい、その時計は、止めたら寝るシステムのやつと違うからな。ていうか、そんなシステムないからな。