息子からの挑戦状

8月の終わりに、ランバージャックスの川遊びイベントがあり、東吉野村の高見川で解禁された鮎突きに家族で行ってきた。

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 ランバージャックスに加入してから、岡本兄弟に教わって、ここ4年間は毎夏、中辺路や夢前などの川で、ヤスを使った魚取りにチャレンジしてきたが、どうにもこうにもうまく行かず、俺には川底でチョロチョロしている鈍臭い魚しか突くことができなかった。夜のキャンプ地での焚き火を囲んだ宴会では、いつもおこぼれに預かり、肩身の狭い思いをしてきた俺だった。「これ俺の突いた鮎やのに!」なんて誰も言わないのだが、俺がいなけりゃ、あいつらもっと食えたはずなのに悪いなぁ。と思いながら、鮎の塩焼きをボソボソと食べていた。こう呟きながら……チキショウ旨えな。自分で突きてえな。

 


でもね。だってね、鮎の素早さったら他の魚に比べても群を抜いていてだね、おまけに自由の利かない水中では、どう考えても鮎を出し抜ける気がしないのよ。しかし、岡本兄弟ときたら、見ているとやんなっちゃうほどの芸術的なヤスさばきで、次々と鮎を仕留めていく……そりゃまぁ、20年以上やってるんだからそのヤスさばきったら職人級なのだ。しょせん俺には無理無理と諦めていた。

 


と・こ・ろ・が・だ。

 

 

ここんところメキメキと力をつけてきた息子のアラタによって、俺の心中は穏やかではなかった。去年、東吉野村へ行ったときに、俺が一匹も仕留められない中、息子のアラタが鮎を3匹も突いたのだ。それからというもの、ことあるごとに、東吉野へ連れて行ってくれと頼まれ、今回のランバージャックス川遊びイベントときたもんだから、アラタの奴ときたら俺に、真正面から挑戦状を突きつけてきやがった。


「パパー!勝負しよっ!!どっちが鮎いっぱい突けるかで勝負しよっ!!鮎の数で勝負のことな!他の魚はアカンで!!」


アラタは中3にもなって、俺のことをまだ「パパ」と、恥ずかしげもなく呼んでくる。もちろん、母親のことは「ママ」と呼んでいる。学校から帰ってきて、玄関の扉を開けるなり、「ママ〜〜ッ!!」と叫び、下校時に見つけたでっかい蛇のことや、担任の先生の不条理さや、その日のオヤツの有無などについて一気にしゃべる。そんなアラタの顔は、ようやく叶った東吉野行きを前にし、期待と自信で満ち溢れていた。3年間続けた剣道部では、ついにレギュラーになれなかったが、部員たちの心の応援団長として、頑張ったようだ。実は、そろそろ身長も追い越されそうだ。いつまで、こうして一緒にいられることだろう。自立心の高いアラタは、巣立ちたくてウズウズしているように見えることがある。先日も、進路志望書を親に何の相談もなく、県外の高校名を書いていた。しかも、保護者名欄には、ちょっと濃い目のボールペンを使い、筆跡を変えて書き、判子まで手作りして押していた。(ただ、あっという間にバレて、即刻先生から家に電話があったのだが。)

 

 

すぐ調子にのるアラタに対しては普段、何かにつけて頭を押さえつけてやってるのだが、鮎突きなら俺に勝てると踏んだのだろう。俺は正直、気が乗らなかったが、男として、父親として、勝負を断ることはできない。

 

同時に心の中では、負けた時の言い訳を考えている俺がいた。


「首がまだ痛いからな。」


春先に痛めた俺の首は、まだ万全ではなく、少し無理をするとシツコク痛みが振り返してきた。バイクにも3ヶ月以上乗っていない。一時は引退も考えたが、最近ようやく復活の目処が立ってきたばかりだ。ここで無理をして、また元の木阿弥になることだけは避けたかった。夢中になると、ついつい無理をしてしまい、挙句に身体を壊してしまうことが多い俺にとっては、ちょうどいいかもしれない。勝ち負けには拘らず、ここはアラタに華をもたせてやるとするか。そして、よくやったと褒めてやろう。

 

 

 


そうして、いよいよやって来た東吉野では、ことあるごとにアラタが、イキってきた。表面上は、「負けへんでー!」と俺もイキがっていたが、まぁ負けてしまうんだろうなぁと思っていた。少し寂しい気もするが、こどもはいつか、父親を越えて行くものなのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


6対3だった。

 

 

 

 

 

 

 


勝ったのだ俺が!3年間、まったく鳴かず飛ばずだったこの俺がなんと、鮎を6匹も突くことができたのだ!!おまけにアマゴも1匹突いたな。これを快挙と言わずして何と言おう!?そう。俺は開眼してしまった。俺の手から放たれたヤスは水中を切り裂き、まっすぐと鮎を射止めたのだ。ヤスを通じて、手のひらに伝わってくる鮎の暴れる振動で、俺の脳みそにはドーパミンが溢れる。鮎を!もっと鮎を!!川の冷たさで、唇が紫になり、奥歯がガチガチと音を鳴らしても、取り憑かれたように川へ入る。ついに俺は、職人の領域に足を踏み入れてしまったのだ。はっはっはっはっー。親父に勝とうなんて、100年はハワイアン。ざまあミクロネシアン。

 

アラタは悔しそうに、道具が悪かっただの、寒すぎただのとモゴモゴと言い訳をしていた。俺は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男が言い訳をするんじゃない(怒)」

 

 

 

 


そうして、今年は気兼ねなく堂々と鮎の塩焼きを食べることができた俺であった。旨かったなぁ鮎、ガツガツと。呑んだなぁビール、ぐびくびと。

 

ただね、ひとつだけ問題があるとすれば……く、首が痛いんだよねぇ。ははーはははのはー(泣)

 

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