薪割り禁止

薪割りのハイシーズンだ。この頃は、一日一時間×週に3~4日くらいのペースで薪割りをしていた。最初のうちは面倒くさく感じるが、やっているうちに鈍っていた身体もよく動くようになり、丸太の山が薪に変わって、薪棚に積み上げられていくのが段々と爽快になってくる。

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しかし、薪割りをしてから合気道の稽古に行くと、力の抜き方がわからなくなり困る。こないだの土曜日の午前中も割りに割りまくっていた。妻や小5の次男がまったく割ることのできないドデカい丸太を一発でボカーンと割って見せ、「きゃーー!すごーーい!!」などとチヤホヤされたりしたもんだから、余計にメラメラとした力が身体の中に湧き上がり、午後から行った合気道の稽古中、(元々、腕に余計な力が入ってしまいがちだというのに、)頭の中には、「おりゃー!」だとか「Power!!」などというイメージが宿ってしまっているのだ。当然、身体中が力んでしまって、繊細な動きを要求される合気道の稽古では使い物にならない。


3月に入ると合気道審査のハイシーズンに突入する。自身の昇段審査が終わるまではせめて、薪割り禁止にしようと思っている。(写真は薪割りをした後に、身体中にまとわりついているイメージです。)

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おしまい

 

金時豆

俺は甘く炊いた金時豆が嫌いだ。


言っておくが俺は、決して甘い料理が嫌いなわけではない。例えば卵焼きは甘いほうが、より美味しいと思っているし、牛肉のしぐれ煮なんて甘くないと始まらない。あの悪評高き、酢豚に入っているパイナップルも全然有りだと思っている。しかし、甘く炊いた金時豆なんて、白ごはんのおかずにもならないし、酒のアテにもならないではないか。かと言ってデザート感覚で食べるには、あまりにも辛気臭い食べ物だ。(もし、甘く炊いた金時豆が大好きな人がいたら、ごめんなさいね。)

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つまり、食べるタイミングがよくわからないので、俺にとっては謎の料理でもある。存在する意味がまったくもってわからないのだ。ときどき、この甘く炊いた金時豆がお弁当に入っていることがあるのだけど、蓋を開けて見つけたら、真っ先に食べてしまう。甘く炊いた金時豆なんて、入ってなかったことにして、一度気持ちも真っさらにリセットしてから弁当を食することにしているのだ。

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落ち着け。落ち着くんだ俺よ。大したことない。だから、そうやってすぐにイラつくのはやめるんだ。早起きして弁当を作ってくれた妻に悪いと思うだろ?いやいや、俺が嫌いなこと知ってて、嫌がらせで入れてんじゃないかとか考えるんじゃないよ。ほら、イライラしたまま食事すると、きっと消化にも良くないぞ。それに、見てみろ。もう入ってないだろ?な?気のせいさ。オーケー、そこには最初っから何も入っていない。ふぅ(深呼吸)。では、いただきまーす。

 

 

 

 

……という具合にだ。

 

 


今朝も台所に置いてある弁当箱を何気なくのぞいたら、片隅に甘く炊いた金時豆を発見したので、思わずその場で食べてしまおうとしたのだが、妻に全力で阻止された。どうやら、おかずゾーンの穴埋めに困ったときには、最適なアイテムなのだそうだ。どうりで一度弁当に入りだしたら、しつこく小出しにしてくるわけだ。

やれやれ温存してやんの……て、おいっ!妻よっ!!聞いているのかっ?!

 

もう一度言うぞ。

 

俺は甘く炊いた金時豆が嫌いだ。言っておくが俺は、決して甘い料理が嫌いなわけではない。例えば卵焼きは甘いほうが、より美味しいと思っているし、牛肉のしぐれ煮なんて甘くないと始まらない。あの悪評高き、酢豚に入っているパイナップルも全然有りだと思っている。しかし、甘く炊いた金時豆なんて、白ごはんのおかずにもならないし、酒のアテにもならないではないか。かと言ってデザート感覚で食べるには、あまりにも辛気臭い食べ物だ。

 

よーし、じゃあ最後に16ビートにのせて歌うからね。途中からでも歌えそうなら一緒に歌ってみてね。あ、それ、ワンツースリーフォー!

 

俺は甘く炊いた金時豆が嫌いなんだ。(♪移りゆく季節の中で、)言っておくが俺は、決して甘い料理が嫌いなわけではない。(♪君と同じ空を見てた。)例えば卵焼きは甘いほうが、より美味しいと思っているし、牛肉のしぐれ煮なんて甘くないと始まらないんだ。(♪何かが変わるような気がしたんだ。)あの悪評高き、酢豚に入っているパイナップルも全然有りだと思っている。(♪It's gonna be all right.)しかし、甘く炊いた金時豆なんて、白ごはんのおかずにもならないし、酒のアテにもならないではないか。(♪Nobody knows somebody knows.)かと言ってデザート感覚で食べるには、あまりにも辛気臭い食べ物なんだ。(♪それでも僕の声は届かない。)

 

 

 

サビ繰り返し×2

 

 

 

ラーラーラーラララーラーラー

 

ラーラーラーラララーラーラー

 

ラーラーラーラララーラーラー

 

ラーラーラーラララーラーラー

 

 

 繰り返し×4

 

 

 

end.

迷惑電話対策

知らない番号が携帯電話のディスプレイに表示されている。

 

「はい、もしもし?」


「こんにちわ。Jさんの携帯でいらっしゃいますか?わたくし、△△会社の×××と申しまして、今回、Jさんにお役に立てるご案内として、安定した収入が見込めるファミリーマンションについてご案内するために電話差し上げたわけなんですが・・・」


通話する前からなんとなく警戒はしていたのだが、この頃よくあるマンション投資の勧誘電話だ。この手の電話をかけてくる連中は、かなりやっかいな場合が多く、反論してみても自信満々で切り返してくるので面倒だ。わけのわからない連中が勧めてくる投資話になんて乗っかる気はまったくないが、少しでもまともに応答しようものなら、営業トークを畳み掛けるように繰り広げられ、電話を切ることがなかなかできなくなる。かといって、こちらのイラつきを言葉にすると、たちまち態度を豹変させ、高圧的な態度で罵詈雑言を浴びせられることもある。


だから、こういった連中からの迷惑な電話には、「興味ないので、切りますよ。ガチャン!」と一方的な対応をするに限る。

 

「はいはい切りますよー。いいですかー。」なんて悠長にやってると、すかさず「Jさん!Jさん!ちょっと待ってください!あのですね・・・。」と、大きな声を出して切り返してくるので、更に電話を切るタイミングを見つけだすのが面倒になるのだ。もう一度言うが、知らない電話番号からかかってきて、その手の胡散臭い勧誘ということが分かったら、すぐに「いらん!」そして、「ガチャン!」と電話を切るのに限る。



しかしこの方法は、なんとなく後味が悪い。別に良心は痛まないのだけど、連中は俺の個人情報をある程度つかんでいることだろう。俺の対応に腹を立てて、いやがらせや仕返しを目論むかもしれないではないか。場合によっては、迷惑な電話がもっともっと増えることになるかもしれない。かと言って、怒らせないよう紳士的な対応をするのも腹が立つ。なんといっても、「そんな話に誰がひっかかるねん。は?まじで行けると思ってんの?」と、言い返したい気持ちが電話を切った後にモヤモヤと残るのだ。

 

一方的に、やられっぱなしでは、あまりにもあんまりじゃないかっ。まるで、外出して帰ってきたら靴の底に犬のうんこがへばりついていた時のような気持ちになるのだ。しかし、言い返したところで、不毛な口論になることは間違いない。連中ときたら、絶対に凹まない心をもっているのだから……とにかく、連中と話す時間の長さに比例して、不快な気持ちが後に残るだけなので、なんとかならんかな?と考えに考えた俺は思いついてしまった。これらの後味の悪い思いを払拭できて、連中に一矢報いることができる方法を思いついたのだ。これは発明だ。今日は諸君にそれをお教えしようではないか。えっへん。

 


まず、連中の話を全力で聞くふりをする。なるべく連中の話に耳を傾けるふりをすればするほどいいかもしれない。オープニングトークを終えた連中は、こちらの反応を伺うことだろう。その時に、できるだけ明るくこう言うのだ。


「へぇー。すごいじゃないですか。これは相当いい話ですね………

 

 

 

 

 

 





って、なるかーーーーい!!ガチャン!!!」

 

 

これだ。陽気にノッてから、突っ込んで、切るのだ。連中はきっと、バカバカしいような、一本取られたような気持ちで胸がいっぱいになり、報復なんて考えもしないだろう。この方法のいいところは、どちらも救われるというところだ。お互いに嫌な気持ちはナッシングだ。その日を幸せな気持ちで終えることができるだろう。

 

普段はノルマに追われ、人タラシをすることで賃金を得ているであろう連中の心にも、人としてのかつての心が蘇るかもしれない。故郷にひとりいる母に、たまには電話でもしてみようかな?なんて、思うかもしれない。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


地方都市の古びた戸建て住宅に、ひとりで暮らす母の携帯電話のディスプレイに、知らない番号が表示されている。

 


母は、付けていたテレビの音量を絞ってから携帯電話に手を伸ばす。息子が高校のとき、夫を癌で亡くしてからというもの、自宅でお好み焼き屋をひとり切り盛りし、今ではすっかりガサガサになってしまった自分の手が目に入り、ニベアはどこに置いたかしら?などと考えながら通話ボタンを押す。

 

「はい、もしもし?」


「母ちゃん、俺俺。ひさしぶり。元気?あんな、俺な……」

 

「ん?なになに?」

 

「母ちゃん、俺な。そっち帰ろうかと思ってるねん。」

 

「えっ?」

 

「俺、仕事辞めてそっち帰るわ。ちゃんとしたところで、就職したいと思ってるねん。」

 

「お、お前……」

 

母は、しばらく絶句したまま何も言わない。電話の向こうで少し泣いているのかもしれない。学生の頃のマサヒデは喧嘩に明け暮れ、高校を中退してからというもの、まともな職には就かず、いつも苦労をかけていた。大阪に出てきて、10年が経つが、悪い連中とばかりつるんで、すっかりヤクザの準構成員のようになってしまっている。今では借金の回収や不動産の投資詐欺の手伝いのようなことをやっていて、かわいがられている兄貴分からは、「そろそろ本物の盃交そか。」と言われていたのだが、「俺、酒飲めないんで。」と戯けて誤魔化していた。マサヒデは、28歳になった頃、腹痛が続いたことで診てもらった医者で『潰瘍性大腸炎』と診断されてからというもの、お酒はほとんど飲まないでいる。元々、お酒はあまり飲めない体質だったので、なければないでなんてことはなかった。

 

そんなことよりも、難病が自分の身体に巣くっていることが分かってからは、マサヒデはいつも心の奥底で怯えていた。果たして俺の人生このままでいいのか?今年で俺も30歳になる。この業界から足を洗うなら今しかないぞ。孝行して母には少しでも楽させてあげよう。できれば結婚して孫も抱かせてやりたいなぁ。

 

 

受話器の向こうから、母がごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「お、お前っ……マサヒデと違うやろうっ!!」

 

「はっ?何言ってんの母ちゃん。」

 

「あれか?流行りのオレオレ詐欺とかいうやつやな?はんっ?」

 

「か、母ちゃんっ。違うって、ほんまに俺やって。母ちゃんの名前は、キクエやし、誕生日は1月31日やろ?それに、父ちゃんの命日は3月5日やんか?な?」

 

「よう調べたあるな。でもわたしゃ騙されへんで。はんっ!あー怖い怖い。でもな、最初から怪しいと思ってたんやで。あんたらあれやな、ほんまに『オレオレ』って言うんやな。ピーンときたわ。あのな、言うといたるわ。そんな古典的なやり方では、だーれも騙されへんでー。声も全然違うがな。」

 


「いやだから、俺やん。よう聞いてみ。マサヒデの声やんか。」

 

 


「あっ……マ、マサヒデ?お前なのかい?ほんとにお前なのかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


って、なるかーーーーい!!ガチャン!!!」

 

 

 

 

 

 


プーッ、プーッ、プーッ、プーッ

 

 

 

 

 

 

 


その夜、マサヒデは飲めない酒をしこたま飲んだのであった。

 

 

 

 

 

 


おわり

帰省

年末の帰省、高松に着いてすぐに、うまいと評判のうどん屋に直行するが、大行列が店の外までウネウネ伸びていたので、次の日の朝一番に出直すことにした。

 

開店前に到着した甲斐があって、うまい具合に座ることができ、かけうどん(小)とぶっかけうどん(小)とかき揚げ(大)を頼むと、すぐに出てきた。イラチの僕にとっては、この回転の良さがたまらなく感じる。

 

さて、味は評判通り美味かったのだけど……すぐ後ろに座っているおっさんがとにかくうるさい。

 

「ここ、麺の長さはええけど、わしの好みでいうと、もうちっと麺が太いほうがええな。」

 

「見てみ?このネギ。エッジが立っとるやろ?このエッジは、新鮮なネギでないと出んからな?」

 

「ええか?うどんは出汁で決まるからな。ここは、いりこがよぉ効いとるでな。」

 

「うどんは絶対に残したらあかんで、作っとる人がガッカリするからな。」

 

食べている間、ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと、うどんのウンチクを家族に向かって話して聞かせているので、ゲンナリしてしまったのだ。黙れおっさん。うどんが不味なる。何よりも、連れの妻と娘らしき二人は、何の反応もしてないではないか。

 

 

 

しかし、ネギのエッジて……。

うまいビールの飲み方

今日は16日ぶりのちゃんとした休みだった。朝五時半に起きて、外の寒さを確かめてから薪ストーブをつけ、炎を見つめていると、思わずビールの栓を開けてしまいたい衝動に駆られるが、グッと堪える。

 

相当冷え込んでいたので、外には出たくなかったが、尼崎へ合気道の稽古へ行く。先生に言われたようには、まったくできない自分の身体の不甲斐なさを確認した二時間半だったが、あぁ楽しかった。

 

帰り道、駅前の王将でビールと餃子から誘惑を受けるが目をそらし、加古川まで帰ってきて駅そばを食べてから、近所の温泉へ行く。サウナでカラッカラになった身体がビールを欲するが、ここもコーヒー牛乳を飲んで気持ちを沈める。ハァハァ落ち着け、まだ行けるぞ。休憩所で小一時間ほど仮眠を取ってから、高砂合気道の稽古に行く。再び思うように動かない身体を疎ましく感じるが、午前中よりも呼吸が楽になっているのに気づく。

 

午後九時、ようやく家に帰り、かわいい息子に酌をしてもらい、うまいビールと肴で休日を締めくくっている。プハァ最高。僕が一番好きな言葉は、「打ち上げ」かもしれない。僕のとるストイックな行動は、打ち上げをするためにあると言っても過言ではない。世界に通じる日本語として、「MOTTAINAI」や「OMOTENASHI」が有名だが、次はぜひ「UCHIAGE」を世界に向けて推していきたいと思っている。唯一の問題は、朝鮮半島から、別の「UCHIAGE」がぐいぐい推してきていることだろうか……。

 

 

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緑色のやつ

この世に存在する数あるお菓子の中で、イラッとさせられることにかけては、このお菓子の右に出るお菓子はないと、僕が思っている物を今日はご紹介したい。

 

神戸に本店のあるお菓子屋さんの定番商品なのだが、よく、贈答品としてもらうことがある焼き菓子なので、知っている人も多いだろう。

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何かの折に人からもらうお菓子セットなので、僕にとっては、年に一度食べるかどうかの特別感のあるお菓子だ。七人家族四人兄弟の家で育ったので、食べたいものを食べるという制度はなく、たいていジャンケンをしてどれか一つ、または二つを選んで食べることがほとんどだった。

 

 

何にイラッとするのか?

 

 

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ジャンケンに勝ったら、ついつい緑色のやつを先に選んでしまうのだ。形も三角形なもんだから更なる期待感が高まっていて、ついついこれに手が伸びてしまう。

 

 

 

 

 

絶対にうまいやつやん♡

 

 

 

 

 

しかし、次の写真を見てもらいたい。

 

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分かってもらえるだろうか?緑色のやつの中身は、ペラッペラのお菓子が三枚入っているだけなのだ。炭酸せんべいくらい薄い。そして、味も薄っす〜い。そう。このお菓子セットの中で、当たりは真ん中の二つ、赤色と金色のパッケージのやつで、赤いやつの中にはチョコが、金色のやつの中にはホワイトチョコが入っている。ちなみに、銀色の袋に入ったやつも緑色のやつと同じようなタイプで、生地も味も薄っす〜い。つまり、四種類のうち二種類がハズレなのだ。

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おいっ!この緑色のやつの外装からは、抹茶クリームが入っているか、チョココーティングされてるか、生地にクリームが練りこんであってフワッとしとるやつが出てこんとおかしいやないかいっ(怒)

 

 

 

 

  

 

 

 

緑色のキラキラした袋に包まれているときのその凛とした佇まいと、中から出てきたときのあまりにも素朴すぎる姿や味が釣り合わなすぎるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その凛とした佇まい……というセリフは、僕がいつか声に出して言ってみたいと思っているセリフだ。しかし現実には、なかなかそんな機会はないので、ブログの中で使ってみた。ちなみに、僕がいつか言ってみたいセリフランキングの第一位は……

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくり飲むんだ。

 

 

 

 

 

 

というセリフだ。しかし、山小屋の近くで、遭難して倒れていた少年を助け、ベッドで気が付いた少年に、木の器であったかいスープをふるまうというシチュエーションがなかなかやってこない。これもいつか満を持して言ってやろうと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて話が逸れてしまったが、 緑色のやつは、別に不味いわけではない。僕は炭酸せんべいが好きなので、違う出会い方をしてれば、好きになっていた可能性もあるのではないかと思っている。例えば、透明のビニール袋に雑に詰められて、スーパーの駄菓子売り場に売られていたら、きっとこんな悪口を言われなくても済んだことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

イラッとするのなら、最初から赤か金の当たりのやつを選んだらいいじゃないですかって?

 

 

 

 

 

 

 

うーん。

 

 

 

 

 

 

なんせ、年に一度くらいしかこのお菓子には出会わないものだから、忘れちゃっているのだ。ついつい選んでしまうのだ緑色のやつを。そして僕はまたイラッとするだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このお菓子を知っている人なら、きっとこの気持ちを分かってくれるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

おしまい

 

ライバル

俺とあいつはライバルだった。俺とあいつは、いつもくだらないことで張り合い、常に互いの行動に目を光らせ、相手の失敗やカッコつけようとした瞬間などを見つけては、すかさずツッコミを入れていた。

 

そう。あいつとは、俺の双子の兄のヒロシのことだ。中学生時代は、そのライバルならではの応酬が一番激しかった時期で、所属していた軟式テニス部では、双子でダブルスのペアを組んでいたのだけど、(双子なだけにレベルが限りなく近かったのと、顧問の先生の面白半分な興味からによるペアリングだ。)お互いのミスがゆるせないもんだから、負け試合のときはひたすら険悪なムードで試合が進んでいった。あんまり憎たらしいもんだから、俺なんてサーブを打つ時に、ヒロシの後頭部を狙って打ってたもんね。本気で。そんな多感(?)な中学時代に、俺は取り返しのつかない失敗を犯してしまった。それは、中三のある夜のことだ。

 

その夜、俺は悪夢にうなされていた。今でもありありとその夢の内容を思い出せる。蜘蛛のようで蜘蛛でない、わけのわからない真っ黒な大量の蠢く虫たちが、家の前にある公園で集結して、次第に家の中へ侵入し、俺の部屋めがけて階段や天井を這い上がってくるのだ。そこから、一気に扉を突き破って部屋に流れ込んでくるシーンが何度も繰り返されるという悪夢だった。逃げようともがいても、なぜか身体がまったく言うことを利かず、何度も同じように襲われていた俺は、再び時間が巻き戻された公園で集結している虫らの気配を感じていた。もう嫌だ。もう襲われたくない。鉛のように重たかった俺の身体が、まず指先からピクリと動いた。それをきっかけに、ガバッと一気に飛び起きた俺は、迷わず隣りのヒロシの部屋に駆け込んでいた。寝ていたヒロシが、眠そうに布団に上半身を起こして不審がる。

 

 

 

 

「な、なによっ???」

 

 

 

 

「おるねん!」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

「おるねん!」

 

 

 

 

 

「はっっっ???」

 

 

 

 

「おるねんてっっっ!!!」

 

 

 

 

 

とにかく、もう時間が残されていない。奴らの気配が、すぐそこまで迫って来ているのだ。俺は、迷わずヒロシの布団の足元にもぐりこんで、そのまま頭からすっぽりと掛け布団をかぶった。身体中にかいている汗の量もすごかったが、がくがくと膝が震えていることにも気づいた。

 

冷静になってきたのは、しばらく経ってからのことだ。こ、これはやばい。俺は今、絶対にやってはいけないことをやってしまっている。実は、俺が三歳くらいの時にも、寝ぼけて布団から起き上がり、家の外まで走って出たことがあるらしいのだ。隣りで寝ていた母親が気づいて追いかけると、家の前の公園まで逃げた俺は、追いついてきた母親の顔を見て、こう叫んだそうだ。

 

 

 

 

 

「ぎゃーーー!!おばけーーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

なんせ三歳くらいの時のことらしいので、まったく自分では覚えてないのだが、ことあるごとにその話題は食卓にのぼり、家族からいじられていたのだ。中三にもなって、怖い夢を見て、あろうことか最大のライバルの布団にもぐりこむなんて、これは一生コケにされ続けるに違いないぞ。と、ヒロシの布団の中で違う種類の汗をかき始めていた俺は、ヒロシの寝息が聞こえてくるまでひたすらジッと待ってから、気づかれないよう、ゆっくりと、ゆっくりと自分の部屋へ戻ったのだった。

 

 

 

 

「おい、あれは何やったんや?」

 

 

もちろん翌朝、ヒロシが聞いてきたので、俺は答えた。

 

 

「はっ?何が?」

 

 

できる限りキョトンとした顔で、俺はトボけた。当時、中三だった俺のその時の演技力は、その年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされてもおかしくないくらいに洗練されていたと思う。調べて見ると、その年(1988年)のアカデミー賞主演男優賞は、映画『ウォール街』のマイケル・ダグラスが受賞したらしい。

 

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……は?

 

 

 

俺やろがいっ?

 

 

 

昨夜の「おるねんっ!」のくだりも含めて、俺こそが主演男優賞や。迫真に迫る演技やったやろがいっ。ダグラスごときが何をでしゃばっとんねん。フン。

 

 

 

さて、ヒロシには、それからも二〜三度確認されたが、そのまま、ひたすらトボけにトボけ続けて、十年以上経ってからカミングアウトした。

 

 

 

「あ、あほよっ。あの時、むっちゃくちゃ怖かってんぞっ。」

 

 

 

と、怒られた。考えてみりゃそりゃそうだわな。ごめんよヒロシ。

 

 

 

 

 

 

おわり