仕事から帰ってきて、玄関の鍵穴に鍵を差し込んでいると、屋内からドタバタと音が聞こえてくる。息子二人と娘が、我先にと階段を駆け下りてくる音だ。
「今日お父さんの横、誰ですかっ?」
玄関の扉を開けるなり、三人の子供の叫び声が戸外に飛び出してくる。
いつの頃からか我が家では、食事前にお父さん(つまり俺)の顔を見ながら、「今日お父さんの横、誰ですかっ?」と、一番最初に俺に聞いた子が、俺の隣りに座ってご飯を食べることができるというルールができていた。誰よりも早く言うことがポイントだが、「ちゃんと顔を見ながら」ということと、「噛まずに、はっきり聞き取れるように」言うことが勝敗のポイントだった。三人の競争心は、徐々にヒートアップしていき、終いには冒頭のように、俺が鍵穴に鍵を差し込むだけですぐさま反応して、笑顔で飛びついてきてくれるようになっていた。
朝に夕に、このような光景が繰り広げられていた。その度に俺の心は癒され、お父さん冥利につき、美味い酒が飲めていたのであった。
ほんの2〜3年前までは、、、
「今日お父さんの横、誰ですかっ?」
ここ最近、このセリフを言ってくれるのは、次男だけになった。別に聞かなくても、俺の横に座ることはできるのだ。なぜなら、そこには競争がないからだ。それでも、真面目な次男は、朝に夕に、聞いてくれる。
「今日お父さんの横、誰ですかっ?」
人気のなくなってしまったお父さんに気を使ってくれているのだろうか、、、、
って、オイ!誰が人気ないねんっっっっ!!!
おわり