引っ越し

春から新しい職員が増えるため、今の事務所では机が収まりきらなくなり、僕の所属する部署が事務所を引っ越すことになった。


これまで休憩室として使っていた部屋を事務所として使うことになり、年度末の忙しい時期だったが、僕は上司との折り合いが悪く、今の事務所にいるのは、空気が相当息苦しかったので、嬉々として引っ越しの段取りをしていった。まずは、引っ越し先の部屋の片づけからだ。この際、使ってない物は処分してしまおうと、僕と男性のSさんが、どんどん物をどけていき、女性のKさんとMさんが、それぞれホウキと雑巾を使い分けて、出てきたゴミや汚れをきれいにしていく。昔からの雑多な物が残されていた部屋は、みるみるうちにきれいになっていく。なかなかのチームワークで、始終にこやかなムードで作業が進んでいく。どうやら、他の人たちも今度の引っ越しがうれしいようだ。

 

部屋の隅に並べていたロッカーのうちのひとつを処分してしまおうということになった。3つ並んだロッカーのうち、真ん中のロッカーの傷みが酷かったので、そいつを捨ててしまい、片側のロッカーを寄せて2つにすることした。スチール製のロッカーとはいえ、たいして重たい物ではなかったが、僕とSさんのふたりでひっぱりだそうとしていると、なぜだかある場所からまったく動かなくなってしまった。どうやら床から突起物がでていて、それにロッカーの裾がひっかかっているようなのだ。ロッカーを5㎝ほど持ち上げると、難なく動かすことができたが、突起をよく見てみると、それは床にしっかりと固定されているようで外すことができない。元々の用途が何なのかよくわからない突起なのだけど、どうせまたロッカーで隠れてしまうので、気にせずに離れて置いてあるほうのロッカーを移動させることにする。女性陣による床の掃除が終わると、僕とSさんで手前までロッカーをひきずって行き、最後に突起を避けるためロッカーを持ち上げるつもりだった。僕は、ロッカーを持ち上げるのに最適なタイミングで相方のSさんに声をかけた。

 

 

 

 

「ハイ、そこボッキ注意してね。せーのっ。」

 

 

 

 

 

空気が凍りついたのが分かった。あわてて、正しい言葉に言い直したがもう遅い。何事もなかったことにするために、僕はテキパキと片づけを進めていったが、空気はいつまでも息苦しかったし、僕の耳だけが赤かった。今となっては思えば、言い間違えたときに思い切って得意のノリツッコミをしてしまえば良かったのだが、SさんもKさんもMさんも、僕よりだいぶ年上の職員のため、普段僕の持ち味を発揮できていない。お堅い人が圧倒的に多い職場ということもあって、悪ノリできない僕は、職場では好青年で通ってしまっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みなさんもロッカー下のボッキ……もとい突起には気をつけようね。

 

 

 

 

 

 

 


おわり