バリカン

バサバサバサッ

 

 


新聞紙の上に前髪が落ちた。

 

 

 


え?

 

 


一瞬なにが起こったのか、分からなかった僕は、次第にその状況を飲み込んできて青くなる。


僕の右手には、6mmにセットされたバリカンがあり、頭は床に広げた新聞紙の上にもたげさせている。


そもそも、伸びすぎたアゴヒゲを整えようと、床に新聞紙を広げたのが悪かった。その同じやり方で、僕は8年間に渡り丸坊主だった頭を自分で刈ってきたものだから、新聞紙の上に屈み込んだ途端、条件反射的にバリカンを持った右手が頭部へ行ってしまったのだ。そして……

 

 

 


バサバサバサッ

 

 

 


新聞紙の上に前髪が落ちた。

 

 

 


今春から、8年ぶりに伸ばしだした僕の髪は、ようやくツーブロックにできるようにまで伸びてきたというのに、一瞬にして僕の目の前は真っ暗になった。

 

 

 

丸坊主にしている友人の岡本君に、もしも髪の毛を伸ばすときがきたら、気をつけたほうがいいぜと話すと、「んなあほな。」と一笑に付されたが、年賀状に「岡山県」と書かなければならないところを無意識に「岡本」と書いてしまったことが過去に何度もあるはずなのだ。僕もこれまでに何度、「東京都」と書こうとして、「東条」と書いてしまったことか……長年の習慣とは恐ろしいものなのである。

 

みんなも宛名書きとバリカンには気をつけよう。次は、この話を他人事と思い油断しているあなたの番かもしれない。書き損じたハガキなら5円払えば戻ってくるが、部分的に刈ってしまった前髪はなかなか元には戻らないのだから。

 

f:id:themegane3:20170923094847j:image