僕は、倉庫に仕舞っていた斧を引っ張り出してきた。先端部分が少し錆びてはいるが、立派な和斧だ。
僕はまず、割り台となる太めの丸太を置き、その上に適当な大きさの丸太を置いてみた。
おおっ!
こ、これは……
絵になる!!
すかさず僕は斧をその丸太の横に立てかけてみた。
おおおおっ!!
見たことあるでっ!こんなん雑誌とかテレビで見たことあるでっ!!
木こりやん!!まるで木こりやんかいさっ!!
こりゃあ忙しくなりそうだっ。
ピューーッ!
僕は颯爽と家に入り、服をツナギに着替えた。
何事も格好から入ることが肝心なのである。
ツナギに着替えた僕は、セルフモードで何枚かの記念撮影をした。
もちろん丸太をバックにし、斧を手に持ったポーズだ。
も、もう家に入ってゴロゴロしてもええかな?
とも思っていた。
ぶるぶるぶるっ
いやいやあかんあかん。狭い庭に山となった丸太をなんとかしなければならないのだ。それが今の僕に与えられた最大のミッションなのだ。
……ミッション?
その崇高な語感を前に、急に僕のテンションは上がってきた。
……よしっやるか!!
僕はおじいちゃんの使っていた斧を握りしめ、丸太の前に立った。
……と、まぁこんな風な感じで僕の人生で初めての薪割りは始まったわけなんですが(前置き長っっっ!!)、これを読んでいるあなたがもし、初めて薪割りをやる人に薪割りを教える場合、多くの人が感じる“斧への恐怖心”を取り除いてやることが一番のように思うわけですよ。
「外したら相当シャレにならんな……(ゾッ)」
と考えるだけでも、身が縮んでしまいます。
中には恐怖心のあまり、斧を振り上げたとき、無意識に半歩だけジリリッと下がってしまう人もいます。このときにはもちろん間合いが狂うので、とても危険です。
そして怖いので当然、斧に力も入りません。
おまけに肩に余分な力が入っているので、狙いにも狂いが出ます。
いったいどうすりゃいいんだっ!?
と考え、思いついたのが、『斧を落とすこと』を繰り返すことで、斧のコントロールを身につけることです。斧の先端部分は、だいたい1.5kgくらいの重量があり、形も樹木を押し開くような角度がついているため、杉などの柔らかい樹木だと、本当に斧を落とすだけで割れてしまうんです。
初めての薪割りの第一歩は、斧を狙ったところにちゃんと当てる。と、いうことに尽きるのではないでしょうか?
さて、あなたが薪割りを教えている相手がもし……
「ビビってしまっている。」
「腰も引けてしまっている。」
「肩に力がガチガチに入ってしまっている。」
「人生に絶望感を感じ始めている。」
と、いうようなときには、『斧を落とすこと』を心がけた練習をしてください。
(右利きならば、左手は斧の柄の先、右手は柄の真ん中あたりを握ってもらいます。)
①丸太の上に斧の先端を当てます。
②斧を頭上まで持ち上げます。
③斧を落とします。
と、まあこういう感じですね。大事なのは②から③への動作のときに、斧にはいっさい力を加えず重力のみで落とすということです。そうすることで、斧は必ず①の位置に戻ってくるというわけです。
ここで肩に余計な力が入っているとスイングがブレますので、斧は元の位置には戻ってきません。相手を充分にリラックスさせてあげましょう。
それでもまだ不安げにビクビクしている相手には……
「斧は必ず同じ場所に戻ってくるよ!あったりまえのことじゃないのー!!」
と、いわば暗示にかけてやるのもひとつの方法ですね。
「やればできる!」
「自分を信じて!」
……なんて掛け声はくれぐれも御法度ですよ。うっとおしいだけですからね。
ふぅ。
何度か①〜③を繰り返してください。ここでは丸太を割ることを目的としてません。狙い通りに斧が落ちてくる(戻ってくる)感覚を身につけることが大事です。
さていよいよ、斧が狙ったところに当たるようになってきたら、丸太に斧が当たるときにだけ斧の柄を握りしめて、力を加えるようにしてもらいます。吹っ切れたスイングには自然とコントロールとスピードが乗っているので、気持ち良く割れるようになっているはずです。
パカッ!!
ほらね?
※非力な人には杉やポプラなどが最適です。楠、松は最悪サイテーですので、やめておきましょう。また、節や枝のない物を選んであげてください。
おしまい