薪割りワークショップで薪割りのインストラクターをやってると、腕に覚えのあるおっさんが出しゃばってくることがちょくちょくある。
昔から出しゃばりな奴が嫌いな私にとって、これはかなりイラッとくることだ。
おっさんは、自分も薪割りを教えたくて教えたくて仕方がないのだ。たくさんの人が集まるイベントなどで、薪割りワークショップをやっていると、物珍しさからギャラリーが群がることがある。
そのギャラリーの中から遠巻きに、腕組みをして見ていたその出しゃばりなおっさんは、薪割りワークショップに参加している人のフォームや力加減に、ちょいちょい注文をつけだす。
「あかん。そんなんではあかん。」
(イラッ)
「そんなんで割れるか?」
(イライラッ)
「もっと斧を上まで振り上げんとあかんな。」
(イ、イライライラッ!!)
さてタカシの怒りが頂点に達したところで、なぜこういうことがちょいちょい起こるのかを説明しよう。実は……初めて薪割りをする参加者で、明らかに斧を怖がっている人に対しては、本式の割り方を教えていないのだ。
そういう参加者に対しては、いかにして恐怖心を取り除いてあげることができるかということにつきる。どうしたら安全で且つ確実に丸太に斧が命中することができるようになるかということにポイントを絞り、斧の振り方を教える。恐怖心がなくなってきて、狙ったところに斧が落ちるようになってきて初めて、肩の力が抜け、必要なところに力が入るようになる。そこでやっと本式の割り方を教えることができるのだ。(キラーン☆)
おっさんにはそれが分からないので……
「斧の振り方がなってないな。」
と思いながら見ているのだ。だから思わず口を出したくなる。そして教えたくなるのだ。
いや教えたいというか、基本的に口出ししてくるおっさんは、みんなの前でええカッコしたくてしょうがないのだ。
そりゃあその気持ちは分かる。私にだってええカッコしたくなるときはちょくちょくある。
でもな、今はおっさんの方が違うねん。
私がまったく相手にしないので、ここらへんでアドバイスするのを諦めてくれるおっさんもいる。しかし、相手にされないことで、逆に気分が高揚してくるおっさんもいる。
おっさんは、じわじわと私がいる割り台との距離をつめてきて、更に大きな声でそのフォームや力加減にアドバイスを繰り返すのだ。
「ほれもっとしっかり振らんかい。」
気がついたらおっさんは、すぐ側に来ていて、私と同じ立ち位置にいる。この手のおっさんは、ついには口だけではなく手も出してくるのだ。
「わしに斧、貸してみい!」
………さて、こういう出しゃばりのおっさんには、秘技 “ くすのきトラップ ” をお見舞いすることにしている。くすのきとは、よく小学校の校庭なんかに植えられていて、くねくねしながらかなり大きくなる木だ。くすのきの丸太は、軽いので割りやすそうに見えるが、実はとんでもない難物で、木の繊維が複雑に絡み合っているので、なかなか素直には割れないのだ。思いっきりぶっ叩いても、トスッと音がするだけ……まるで斧の先端が吸い込まれてしまうような無力感に苛まれるだけなので、私たちは見向きもしない。
そのくすのきの丸太を出しゃばりなおっさんにソッと差し出すことを “ くすのきトラップ ” と呼んでいるのだ。ええカッコしようと出しゃばってきたおっさんが、苦戦している姿を見てニヤニヤするのだ。ちなみに、松の木も割りにくく、同じ効果が見込めるので、大勢の人の前で薪割りを人に教える際には、是非どちらかをご用意ください。
ちなみに、そのおっさんが、くすのきや松の木が割りにくいことを知っていた場合には、すかさず、「是非、割り方を教えてください。先輩。」と言えばいいでしょう。
おしまい。